忍者ブログ
不知夜月とJardin de ciel(空の庭)のコラボ頁です。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

† 闇に咲く悦楽の閨 第3章 3幕 †

ニコルが消えたと思われる寮の地下の扉。その向こうには何が秘められているのか。ジョフロアは、以前自身が見つけた別の経路を辿って、そこへ向かった。一方、景虎は深夜の寮の廊下で胸の痛みに踞るアレクを見つける。ヴァンパイアの秘密がヴェールを脱ぐ長い一夜が始まった。

拍手

PR

Drama

ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:23
  • edit
ふわりと冷たい風が吹きあがる洞穴。光耀寮の裏手の森の奥、木立に隠れた奇岩の底にそれはあった。制服をひっかけないように用心しながら、彼はその中へ細身の体を滑り込ませる。ジョフロアは寮からとは別の経路で、ニコルが消えたと思しき地下洞窟地帯への侵入を試みていた。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:24
  • edit
…ふう
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:24
  • edit
降り立った場所は明らかに外気とは温度が違う。光が遮断され、流れる清水によって浄化された空気は、嫌でもジョフロアの気持ちを引き締めた。彼の認識ではそこは聖域に近い。神の摂理から外れた者に守護された、独特の紫煙に似たオーラが辺りに漂っていた。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:25
  • edit
おじゃましますよ
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:26
  • edit
彼の動物的感覚は、己が誰かのテリトリーを侵している事を感じとっていた。禁忌の領域に入る。そんな緊張感が彼を襲った。一度入口までは来たことがある。だがその時は引き返した。平坦に続く濡れた小道は、一見自然のままに見えて、何者かによって手が加えられている証拠だ。その横を走る冷水に手をつっこんで、彼は喉を潤した。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:27
  • edit
すごいな…
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:28
  • edit
ジョフロアは辺りを見回した。人狼の特殊な視界にしか入らない暗闇には、其処かしこに鋭利な六角柱の石英が先端を天に向けている。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:30
  • edit
うっかり踏み抜いたら只ではすまないや
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:30
  • edit
水晶群を護衛のように従えているところから見て、そこは暗闇の奥に秘められた神殿か聖殿地区に近いものなのだろう。やがてその景色に薄碧色の苔が柔らかく光を添える場所に辿り着くと、景色は一変した。岩床中の細かい雲母や方解石が苔の放つ光を反射して朧な輝きを見せている。それが、ジョフロアの立つ足元から側壁、果ては天蓋部分にまでせり上がっていた。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:31
  • edit
うわぁ…綺麗だな…
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:31
  • edit
淡い銀河に飲み込まれたような感覚に、ジョフロアは暫く立ち尽くす。さらに進むと、完璧な静寂を守りながら歩いていた彼の足元が急に音を立てた。キュッキュッと粉雪を踏むような音。ジョフロアは慌てて歩を止め、しゃがみこんだ。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:31
  • edit
水晶砂だ…
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:32
  • edit
手に取った黄金色の小さな水晶の粒。指の間から零れ落ちる光の群。角が侵食され丸味を帯びた一粒一粒が擦れ合い、小さな音を立てたのだ。夢のように美しくもあるのに、侵入者を知らせる警報器。そんな鳴き砂の役割を悟って、その心憎さに思わず笑みがこぼれた。目指す場所はそう遠くないはずだ。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 14:34
  • edit
…今ので見つかっちゃったか
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 14:34
  • edit
気配を感じてジョフロアが独り言ちた時、暗闇の奥から声が掛かった。
ジーク
  • by s
  • 2009-03-16 15:07
  • edit
やあ、奇遇だね
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-16 15:25
  • edit
そう吐いた言葉が本意とは裏腹な事を示すかの様に くっくっ、と喉元から含み笑い。肩を過ぎて背にかかる銀糸の髪に、氷の様な翠蒼色の瞳の人物。闇の主だ。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 18:12
  • edit
本当ですね、卿。こんなところでお会いするとは
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 18:12
  • edit
ジョフロアは悪びれもせず立ち上がると、真っ直ぐにジークを見つめて笑顔で軽く会釈した。良く似た色を湛えた瞳。それなのに温度が違うかのような印象。片や刃物のように容赦なく、片方は真綿のように柔らかい。決して力学的対立が起こり得ない視線が暫し絡んだ。ただ、ジョフロアの方が大分はにかみが強い。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 18:12
  • edit
無作法な侵入、お許し下さい。お詫びは如何様にも
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 18:13
  • edit
素直に認めて、沙汰を待つように片膝を折る。
ジーク
  • by s
  • 2009-03-16 18:35
  • edit
詫びなど無用だよ。...綺麗だろう、ここは。暫し時を忘れさせてくれる。今宵は新月。こんな風に君と共に過ごせる夜をあてがうとは、日本の月読の尊も粋な計らいをなさる。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-16 18:37
  • edit
あくまで柔らかな物腰で語るその言葉の裏には、明らかに来訪の目的を問う気配が滲んでいる。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-16 19:13
  • edit
ええ、とても綺麗ですね。自分が何者なのか忘れてしまいそうだ。そして、無礼をお許し下さるのですね。感謝します。…ですが、卿。僕では役不足でしょう? 新月の狼男など、お伽噺のネタにもならない
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-16 19:14
  • edit
ジークの言外に潜む詮索の視線を知りつつ、興に乗っても許されるような気がして、ジョフロアは周りを見渡した。ジークの持つ圧倒的な余裕。それは、彼が生きてきた長い時間によって培われたのだろうか。急かされている気がしない。それでも、その存在感からくる圧力によって、自分が絡め取られてしまった虜でしかない事は分かっていた。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-17 03:56
  • edit
…ところで、月読(つくよみ)とおっしゃいましたね。僕はこの間、古文の宿題を調べていて見つけたばかりだ。古事記や日本書紀に出てくる夜を治める君。黄泉の国の王子。まるで貴方の事のようだな。…卿は一体いつからこの日本に?
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-17 03:56
  • edit
光る苔と雲母が作り出す星々の天蓋。足元を流れる水晶砂の天の川。それらを眺めていたジョフロアの視線がジークの上で止まった。銀髪の冥府の王。彼はそれに相応しい佇まいだった。
ジーク
  • by s
  • 2009-03-17 04:39
  • edit
黄泉の国か...冥府の王もさぞかし厄介者を生み出したものだな。
ところで、ここにはいつからと?さぁ...我々は昔から何度かこの日本を住処とした事がある。加えてここは何故だか居心地が良い。
さて、今度は私が君に質問する番だ。今日は何の為にここに来たんだい?単に私に会いにならこの上なく光栄だが。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-17 04:53
  • edit
ええ。この学園は確かに心地良いですね。…目的を白状しましょう。伝えに来たんです。愛していると…
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-17 04:59
  • edit
そう言ってジークの瞳を見つめ、くすっと笑ってからジョフロアは付け加えた。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-17 05:03
  • edit
アレクからニコルへの伝言です。つまり、僕はニコルを探しに。でも、もうそれは二の次になりそうだな。卿がそうおっしゃって下さるのなら、僕の方こそ、その光栄に与からせて頂けますか?
ジーク
  • by s
  • 2009-03-17 05:31
  • edit
可愛い事を言う。本気にするぞ。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-17 05:41
  • edit
低く通る穏やかな声音が、ゆっくりと湿り気を帯びた清廉な空間に響き渡る。仲間の名前が出たにも関わらず、声の主に動揺の色はない。
ジーク
  • by s
  • 2009-03-17 05:49
  • edit
単なるメッセンジャーでは確かに高い代償だ。純粋に君の好奇心を満たすのであれば、今宵闇の世界にお連れしよう。
ジョフロア
  • by z
  • 2009-03-17 06:35
  • edit
…代償? 怖いな。ですが、おっしゃるように僕は好奇心に勝てそうにない。卿に案内して頂けるのならば、光栄の極みです
ナレーター
  • by z
  • 2009-03-17 06:35
  • edit
怖いと口にした口元には、笑みがあった。静かで恐れを知らぬ瞳。ゆらりと立ち昇る自信。だが決して圧して来ない。寧ろそれが相手を惹きつけた。ジョフロアの何もかも享受する姿勢が、ジークをして不足ない相手と判断させたのだろうか。冷徹な闇の主に新鮮な感情を呼び起こさせた。
一方のジョフロアも知りたい事が山ほどあった。寧ろ願ってもない展開に、ジークに軽く会釈する。そして、踵を返し、更に闇の奥へと向かうジークの背に従った。
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:16
  • edit
しばらく寮に姿を見せない男がもう一人いた。景虎はこの3日間図書館の奥の部屋に篭っていた。埃臭くかび臭い古い書の山。壁に設置された一面のガラス戸の向こうで死者のように沈黙している過去の記録が、景虎にいくらかのことを語ってくれた。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:16
  • edit
学園の創立された明治の頃…か…
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:17
  • edit
白い手袋が埃によって色が変わる頃、彼は丁寧に綴じられた学園記録から角の朽ちた古びた写真を見つけ出した。そっと指で撫でると小さく不明瞭ながらGDの姿がセピア色に浮かび上がった。裏には筆文字でイニシャルが記されていた。S・暉堂。撮影者の名だろう。景虎はその頃の理事や学園に関係する一族の名を調べ始めた。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:17
  • edit
誰が交わした契約だろうが、俺が破棄してやる
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:17
  • edit
景虎は厚い文書をバン、と音を立てて閉じると硬い口調でそう呟いた。
効果音
  • by t
  • 2009-03-18 04:18
  • edit
コッコッコッ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:18
  • edit
深夜の寮の廊下に低い靴音が響く。いつもの正面玄関からではなく西口から寮に入ったのにそれほど理由があるわけでもなかった。マスターキーを持つ彼は見回りを兼ねて遠回りをすることもある。警備員からの会釈を受けて彼は独り階段を昇っていった。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:18
  • edit
……
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:19
  • edit
ふと、足を止めたのは何かが視線の隅を掠ったからだ。縦長のガラス窓から街灯のオレンジ色の光が斜め下から差し込んでいる。踊り場に置かれた背の高い観葉植物の葉がさわり、と動き天井でその影が揺れた。ただそれだけ。景虎の低い声が深夜の冷たい空気に流れる。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:19
  • edit
誰か居るのか?
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:19
  • edit
振り返り数歩足を進めて、彼はいきなり動きを止めた。彫刻を施した陶器の植木鉢の向こうに人影が蹲っている。大きな手に似た緑の葉が幾重にも重なり、その姿を隠していた。景虎の黒い瞳がすうっと温度を下げ、冷たい気配が増した。薄闇の中でも柔らかく銀に光をはじく特徴的な銀の髪。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:20
  • edit
おい、G・D。獲物待ちか。それとも狩りの最中か?
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:20
  • edit
軽蔑の篭った冷たい声が降りかかる。アレクは今更気がついたように、俯いていた顔を上げた。その肌の色がいつもよりずっと影を差し白いことに景虎が気づいたかどうか。ガラスにもたれ掛かる様に身じろぎし、アレクは彼を見上げた。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:20
  • edit
...誰?...
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:21
  • edit
ふざけるな。景虎の表情にそんな憤りの気配が掠った。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:21
  • edit
さあな。お前の待ち人でないことは確かだろうよ
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:22
  • edit
景虎君...か。ごめん、悪いけど...僕の部屋まで肩を...貸してくれないかな...
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:23
  • edit
踞るアレクから発する 途切れとぎれな言葉は消え入りそうな程、か細く弱かった。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:23
  • edit
俺の名を呼ぶな
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:24
  • edit
苛立たしげな声。景虎の五感は確かにアレクの異変を察知していた。けれど最近ずっとくすぶっている怒りの種が彼の目を眩ませていた。知ったことか、と言わんばかりに冷たく踵を返す。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:24
  • edit
二度と、お前の頼みを聞く気などない
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:24
  • edit
ニコルを抱きとめた次の瞬間、血を掠め取られた記憶は彼らの印象を最悪にしていた。景虎には二度とアレクに近寄る気もなかった。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:25
  • edit
景虎君の上の名前...なんだった...かな?
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:25
  • edit
そう言いながらもアレクは治りかけていた胸の傷が悪化したのか、踞ったままだ。景虎の言い捨てた言葉が静かな建物に響き、規則正しい靴音が段々と小さくなる。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:25
  • edit
思い出せないや...でも、とにかく部屋に戻らないと...
ナレーター
  • by t&s
  • 2009-03-18 04:28
  • edit
人に忌み嫌われるのには慣れている。それでも、こんな夜はそれさえも堪えるのか、その場を立ち上がる気力が今のアレクには沸いて来ない。

自室に帰り上着を脱ぎ捨て、景虎は冷たいペットボトルの水をあおって一息ついた。いつもの癖で窓から空を見上げると、月のない今宵は星の瞬きが美しい。地上では深い闇が寮の裏の森に向かって伸びていた。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:28
  • edit
……
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:29
  • edit
景虎の神経を何かが小さく苛んでいた。網膜の隅に焼きついた映像。それが消えていかない。蒼白な顔色と窪んだ眼孔。苦しげに途切れた言葉と微かに震えていた肩。あれはヴァンパイアの手管なのだろうか。弱っているように見せて近づいてきた者を逆に喰らう。自然界にはありがちな手だ。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:29
  • edit
……くそっ!
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:29
  • edit
目を閉じてしばらく沈黙していた景虎は、結局椅子を蹴って立ち上がった。上着を取りペットボトルをポケットにねじ込む。アレクの細い指先は無意識なのか左胸を押さえていた。数日前に彼の拳が打ちつけた場所。制服を着ている限りは守るべき対象だ、と訴えたジョフロアの言葉が、揺れる彼の耳に残っていた。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:30
  • edit
おい、GD。警備員に見つかって大事になりたくなければ、這ってでも部屋へ帰れ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:31
  • edit
足早に向かった階段の踊り場で、さっきとほとんど同じ様子でアレクは蹲ったままだった。景虎は足元で小さくなった身体を見おろして舌打ちする。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:31
  • edit
景....。うん....わかってる。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:32
  • edit
その声は先程の景虎だとアレクには分かっていた。しかし、唯一甘えられない相手。彼の言葉は冷たかったが、それでも気になって戻ったのかもしれない。そんな想いが頭を掠め、踞りながらも下肢に力を込めた。が、ガクガクと膝がわらって立てない。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:40
  • edit
……
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:41
  • edit
景虎はそんなアレクの様を眉を顰めて眺めているだけだったが、ふと視線を階段の下に向けた。遠くから静かな足音がしている。警備員のものだろう。景虎はとっさに手を伸ばし、アレクの二の腕を摑んだ。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:41
  • edit
さっさと起きろ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:42
  • edit
手の平から流れ込んだ感覚に景虎は動きを止めた。酷く熱く、そして冷たかった。どちらなのか分からないアレクの体温。ニコルには感じなかった感覚が、彼の身体の異常を物語っていた。景虎を見上げた淡い緑の瞳の焦点がぶれて揺れる。今にも閉じてしまいそうだった。コッコッコッ。足音は近づいている。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:42
  • edit
今度俺の血を盗んだら首の骨をへし折ってやる
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:42
  • edit
一声凄んでから、景虎は屈み込んだ。アレクの背と膝をすくうように抱き上げる。景虎に伝わったのは思いがけない軽さと、そして甘く緩やかに神経に溶け込むようなアレクの香りだった。大柄な彼が急げば目的地へどれほどもかからなかった。鍵のかかっていないドアを乱暴に開け、苦情を言う相手を探して景虎は怒鳴った。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:43
  • edit
ランドルフ! さっさと出て来いっ
アレク
  • Aesthetic Authors 〔管理人〕  
  • 2009-03-18 12:06
ニコルはいないよ...3日前から帰って来てない。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:43
  • edit
確かに他に誰かいる気配はそこにはなかった。素性上の理由からあてがわれた寮の端の二人部屋。焦げ茶を基調にした重厚かつ洗練された調度品の並ぶ内部は、特別華美な装飾ではないがヨーロッパ調の落ち着いた空間を演出している。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:45
  • edit
ありがとう。景...。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:45
  • edit
彼らが弱い太陽の光を完全に遮れる様にと施されたチャコールグレイの重たい遮光カーテンと大きな房のタイバックが、すべての窓に掛けられているのが少し奇妙にさえ映る。ふと目を留めると、部屋のほぼ中央に配置されたテーブルの上には、飲みかけのティーカップとチョコレートの箱が開いたままだ。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:45
  • edit
…いない?
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:46
  • edit
されるままにぐったりと横になったアレクを見おろして、しばらく景虎は無言だった。ヴァンパイアは強い生命体の筈だ。なのに、このまま見過ごしていいのか彼には判断がつかなかった。ニコルが居ないとなると尚更やっかいなお荷物だ。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:46
  • edit
誰かが必要なら言え。ランドルフでなければ、あの棺桶の主かフレイか…人間の医師か
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:46
  • edit
お医者さん、嫌い...誰も、いらない。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:47
  • edit
駄々っ子の様な口調で、空ろな目が宙を這う。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:47
  • edit
そうか
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:47
  • edit
これ幸いと足は踵を返そうとした。しかし、目が動かなかった。胸の辺りを彷徨うアレクの細い指先。自分の立場をいささか呪いながら景虎はため息をついた。これがヴァンパイアではなかったらどうしただろうかと。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:48
  • edit
見せてみろ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:48
  • edit
アレクは驚いたように景虎を見上げたものの、抵抗する気力もなくされるままだ。白いフリルに飾られた襟元を溶き胸をはだけさせる。左胸の下辺りが不自然に色を変えて腫れている。景虎は眉を顰め、そこへ手を当てた。儚さを感じさせさえするアレクの薄い身体に当てられた、景虎の淡い褐色の大きな手。肌の色だけではなく、彼らは対照的な存在だった。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:48
  • edit
つ......痛っ....
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:49
  • edit
アレクの細い指先が、その褐色の大きな手をぎゅっと無意識に握り絞める。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:49
  • edit
じっとしていろ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:49
  • edit
景虎はアレクの手を外させると、目を閉じてじっと神経を集中させた。アレクが浅い呼吸をするたびに、手の平に微かに伝わる軋むような違和感。折れた骨がほんの少しずれているような印象だった。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:50
  • edit
身をよじったな…。どこかで転んだか倒れたかしたな?
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:50
  • edit
アレクは小さく目を瞬かせた。息苦しい気がして外の空気を吸おうと部屋を出た途端、階段を踏み外してあそこまで転がったのだ。こんな傷ぐらいすぐに治るはずだった。なのに、ニコルを想い涙を流すたびに自分が弱くなっていく。このまま風になって消えていきそうな気さえした。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:50
  • edit
起きろ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:51
  • edit
景虎は手を貸してアレクを起き上がらせると、細い背中に両手を重ねて再び沈黙した。アレクは少し不安そうに振り返った。自分を忌み嫌っている景虎が何をしようとしているのか分からなかったのだ。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:51
  • edit
さっき、階段から...ちょっと..足を踏み外しただけ。ねぇ、何...する気?...景...。あ、あとは自分でなんとか...
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:52
  • edit
力を抜いて前を向け
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:52
  • edit
じろっと視線で相手を黙らせて彼は再び目を閉じた。彼に中国拳法を手ほどきした老人の口癖は、“気の流れを読め”だった。自分が殴った角度を頭に入れながら、老師の言葉を反芻する。手の平の重なった部分に神経を集中させて大きく息を吸う。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:52
  • edit
ハッ!
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:53
  • edit
全身に漲った力を一点に凝集させ、景虎が手の平をアレクの背に打ち込んだ。衝撃はほんの一瞬、浅く押された程度だった。けれどその瞬間、アレクの身体の中で巻き起こった嵐。それは竜巻に似ていた。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:53
  • edit
……?!
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:54
  • edit
痛みではなかった。人では感じられなかっただろう。人の生気を糧とし、それに敏感なヴァンパイアだからこその衝撃だった。景虎の手の平から迸る生気がアレクの小さな身体の中を突風のように突き抜け溢れ渦を巻いた。熱い、と叫ぼうとした喉から洩れた吐息さえ熱を帯びた。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:54
  • edit
大丈夫か?
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:54
  • edit
倒れ掛かりそうになったアレクの上半身を横から抱きとめた景虎の静かな声。大きな二つの手が胸と背から再び当てられ、アレクの身体の軋みを探る。手の平に伝わる違和感はかなり小さくなっていた。中国拳法の達人である景虎だからこそなしえる技なのだろう。ぐったりと身を預けるように景虎の腕の中に沈んだアレクは何故か微かに汗を帯びていた。
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:54
  • edit
うん...大丈夫。ちょっとびっくりしちゃった僕。これ、何のエネルギー?
景虎
  • Aesthetic Authors 〔管理人〕  
  • 2009-03-18 19:46
気の流れだ
アレク
  • by s
  • 2009-03-18 04:55
  • edit
なんだか不思議なエネルギー。こんなの僕初めて。
ナレーター
  • by s
  • 2009-03-18 04:56
  • edit
アレクには種類は何であれ、景虎の込めたエネルギーが嬉しく、今の自分の弱気を背中からどんっと叱咤されてる様にさえ思えた。言葉や態度は相変わらずぶっきらぼうだが、それでも彼はアレクを心配して戻って来てくれた。それだけでも今迄の景虎からは考えられない行動だが、先程彼がアレクに行った施術の類いは、人のエネルギーを搾取する事でしか人間と触れ得なかったアレクの心に不思議な感覚を残した。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:56
  • edit
これが最初で最後だ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:56
  • edit
相変わらず冷たい口調で言い捨てて、景虎はアレクのベッドから立ち上がった。そして内ポケットから携帯電話を取り出した。同時にねじ込んできたペットボトルに気がついてそれをアレクに投げ渡した。
景虎
  • by t
  • 2009-03-18 04:57
  • edit
飲んでおけ。喉が渇くぞ
ナレーター
  • by t
  • 2009-03-18 04:57
  • edit
景虎の持つ守護の力をアレクはヴァンパイアとして捉えていた。険しい外面に隠された熱いオーラ。施術のせいなのか、ふわりと身がまだ痺れるように暖かかった。景虎の電話の相手はすぐに出たようだ。早口でいくつかのことを告げる景虎の背を、アレクはペットボトルを手に見つめていた。

以下は、ドラマ執筆管理人の書き込み専用です。

他者様の書き込みがあった場合は、予告なく削除させて頂きます。

書込者
キャラ名
台詞
パスワード

Copyright © 月と空のコラボ空間 : All rights reserved

「月と空のコラボ空間」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7 & Zippy
忍者ブログ [PR]

HOME