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不知夜月とJardin de ciel(空の庭)のコラボ頁です。

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† 闇に咲く悦楽の閨 第1章 7幕 †

ヴァンパイア vs 景虎は完全に平行線を辿った。そして、景虎の部屋ではジョフロアさえも中立の立場を主張した。


第七幕
◆景虎の部屋にて
自室に戻った景虎は灯もつけずじっと机の一点を睨んで無言だった。険しい表情と鋭い黒い瞳が燃えるような怒りを映していた。窓の外に現れたジョフロアはしばらく躊躇したものの、静かに部屋へ滑り込んだ。伝言を頼まれた以上、伝えなくてはならない。


景虎:「不愉快だ」
ナレータ-:「景虎は吐き捨てるようにそう言った。何よりもジークの人間を見下した目つきや物言いが癇に障った。自身が人間だった頃の記憶などすでに失って久しいのかもしれない。絶対的な強者の側に立つ生き物の奢った態度が彼を憤らせた。」
ジョフロア:「…あの後、ニコルが言っていました。学園で暮らす限り、今後は人々の身の安全も気遣うと。借りを作るのは彼らも本意ではないと…」
景虎:「お前はいったいどちらの肩を持つ気だ」
ナレータ-:じろり、と睨みつけた景虎の視線にジョフロアは少し苦しげに目を閉じた。ニコルの伝言はかえって景虎をいらだたせた。ヴァンパイアを保護してきたお人好しの歴代の理事長たちをののしってやりたいぐらいだった。
ジョフロア:「…僕は…たぶん彼らとの間に立てる数少ない中立者だから…」
景虎:「中立?」
ナレータ-:「心外だ、というように景虎は眉を深く顰めた。」
景虎:「これからは気遣う、と奴は言ったのだろう? これから? 今まで、あいつにはそんな意識すらなかったんだ。…責めてはいない。そういう生き物だと認識していなかった俺が甘かったんだ」
ナレータ-:イライラと部屋の中を歩きながら景虎には珍しく多弁だった。今まで培ってきた経験がまったく通用しない相手を前に、苦い怒りを抑えきれずにいる。
景虎:「ランドルフはまだしも、あの銀色古狸は学園に愛着も好意もなければ、人への敬意も何もないんだ。それは当然かもな。人ではない。人の姿をしていても思考はまったく別の生き物だ。ここは楽な餌場で、しかも紛れるにはもってこいの場所だ。やつらに保護などいらない。あいつらは化け物なんだぞ」
ジョフロア:「…彼らが学園や生徒に対して、心の底でどう思っているかなんて分かりませんよ。負の立場に居るものは、おいそれと弱みなんて見せませんし…」
ナレータ-:無駄なことだと知りつつ、ジョフロアは説得を試みた。少なくとも自分はこの学園を大切に思っている。人外という意味では自分もヴァンパイアも立場は似ている。ヴァンパイア達に向けられた排斥基準から言えば、自分も確実に引っ掛かっているのだ。
景虎:大体、何を以ってあいつらの言葉が信用できる。人を喰らって食物連鎖の頂点に位置する生き物だ。奴らから見れば、牛や豚と約束するようなものだ…ヴァンパイアの存在は危険すぎる。気まぐれひとつで、誰が、どれだけ命を落とすかも分からない。そんなことが許せれるか
ナレータ-:「ジョフロアはしばらく激昂する景虎を見つめていた。真面目で静かな美貌に悲しげな憂いが浮かんでいた。確かに、調和のとれた共存共栄ならいざ知らず、強者である相手の論理ばかりを見せつけられた。守護の意志が誰よりも強い景虎の事だ。それは驕りにしか見えなかっただろう。持った力で言えば、彼らは確かに強者の称号を得ている。
ジョフロア:「…でも…彼らもこの学園の生徒なんですよ…」
ナレータ-:ジョフロアは分かるのだ。人である事を手放した時から、うしろめたさや哀しみの逆のベクトルとして積み上がって行く強がりや言い訳。そうやって鎧を作り、己を奮い立たせなければ、生き長らえずに潰れてしまう事を。確かに中には本当に驕り昂り、情け容赦ない者もいる。しかし、あんな短い時間で彼らがそうだと言い切れるはずもない。」
ジョフロア:「命にかかわるならとっくに事件になってます。確かに健康を害するかもしれませんが…」
ナレータ-:「景虎に横顔を向けたまま、ジョフロアが小さな声で呟いた。窓から射しこむ月の光が薄暗い部屋の中、彼の表情に影を差す。」
景虎:「今まで事件にならなかったから、これからもならないとは限らない」
ジョフロア:「僕だってその危険性は持っていますよ。…でも、意味は分かります。あなたが知ったからには、今までのように放置しておけないという気持ちも」
ナレータ-:「景虎はジョフロアの言葉には答えず机のパソコンの前に向かった。書類のデータの中には除籍勧告の文章も入っている。相手の名を書き込み理事長代理の判を押してしまえば、それで終わりだ。数日の執行猶予を与えて勧告すれば合法的にヴァンパイアたちを追い出すことが出来る。それでも、画面の放つ光に照らされた景虎の顔つきは暗い。どこかで葛藤が消えていないことをジョフロアは悟った。」
ジョフロア:「…ならば、誰かが彼らにエナジーを奪われたら、僕が回復させます。僕の狼の力で」
ナレータ-:「言いにくそうに言葉を選びながら、少し眉を顰めて続ける。」
ジョフロア:「彼らの食事の後に僕が面倒を見て、記憶を抜いて貰う。そんな共同作業が成り立てば、誰も健康被害に陥る事はないとは思います。…あなたの心配がそれで取り除けるなら、やりますよ」
景虎:「馬鹿馬鹿しい」
ナレータ-:ジョフロアの提案が全く理解できないというように、景虎はますます不愉快そう声を荒げた。」
景虎:「穴を穿ち血を奪った事実は消えない。たとえ傷がなくなったとしても。そんな目に遭わせる権利がどこにある」
ナレータ-:「景虎はジョフロアを見据えてきっぱりと言った。」
景虎:「ジョフロア・ルーパス。この学園の生徒を守る立場から、俺の意見は間違っているか? そうでないならお前が何を言っても無駄だ。もう余計な口を挟むな。交渉は俺がする。確かに、これは俺の仕事だ」
ジョフロア:「いいえ。間違っていません。あなたの意志をはっきり伝えるべきかと。…ですが、向こうから何らかの申し出があるかもしれません。それを聞き入れるための余地は、まだ残してあげて下さい」
ナレータ-:「言葉を発している間はジョフロアは景虎の瞳を見つめていた。けれど直ぐに目を伏せた。その、まるで合わせる顔のないような表情は、明らかに彼が人外の側に立っている証しだった。圧倒的多数である人間の前には、彼らは完全なマイノリティーだ。正論を突き付けられると、人であらざるものはその強大な力を以って対抗し始める事も知っている。まして、人の心を持ち、倫理をわきまえる者ならば、ただ去るのみだった。」

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