忍者ブログ
不知夜月とJardin de ciel(空の庭)のコラボ頁です。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

† 闇に咲く悦楽の閨 第1章 5,6幕 †

地下道の一角あったピンクのもの…。その件に関して、闇の主のジークは戯れに光耀寮を訪れた。景虎との間に散る火花。それは、これからの波乱の予兆を感じさせるに十分な迫力だった。


第五幕
地下道の一角に張り巡らせていたピンクのカーテンは、次の夜になっても取り外されなかった。そこで闇の主のジークは戯れに光耀寮を訪れた。きらりと光った翠の瞳が捉えたのは、帰寮したばかりの景虎だった。偶然なのかどうか、それは彼にしかわからない。消灯時間も大分過ぎた頃、がらんとした光耀寮のホールに二人の言葉だけが響いた。

◆寮のホールでの会話

ジーク:  
何故か、我が住処である地下道にカーテンが張り巡らされている。あまりいい趣味とは言いがたいピンクのカーテンだ。誰が何の為に張ったか、おおよそ予想はつくがね。日本語で「覗くな」「暫し待て」だの「武士の情けだ」だの書きなぐられているし、英語やフランス語の優しい文面が綴られていたからな。だが生憎、人の恋路を邪魔する程 私は暇じゃない。ただ、情事が終わったら片付けてくれると有り難い。少々目障りだ。
   
目の前にいきなり現れて苦情を募る男に景虎は不愉快そうに眉を顰めた。それが誰なのかすぐに見当はついた。得体の知れない力を秘めた不気味な銀のオーラ。人ならざる者の冷たい視線が景虎の神経をちりちりと撫でた。
景虎:  
ふ…ん。お前が、目覚めたという地下の棺桶王子か。地下道はお前だけのねぐらじゃない。利用する者もいろいろ居る。用がないならさっさと棺桶にもぐっていろ。
初対面とは思えない程、高圧的なそっけない言葉で景虎が言い捨てた。だが、ジークはニヤリと微笑みを返しただけで、ゆっくりと去って行った。静かな初対峙。けれど、精神の底に秘めた力がせめぎ合った火花は、これからの波乱の予兆を感じさせるに十分な迫力だった。
この一瞬を闇に紛れてジョフロアの翠の瞳が見つめていた。ジークの後を追うようにして、彼はヴァンパイア達の集う地下道へと向かった。


◆地下道での会話
ジョフロア:  
申し訳ありません、卿。カーテンは直ぐに取り外します。うっかり外し忘れてたら持ち主のフレイが今朝、無い無いと騒いでました。悪い事しちゃったな…。でもあの色なら貴方の足が遠のきそうだという仮説は当たっていたようですね。その事ですが、地下道は歴史的財産なので目隠し工事などできません。ピンクの代わりに迷彩色のを用意しますが、如何でしょうか? …って、そういう意味の目障りじゃなかったかな?
   
地下道の入り口のひとつに立ったジョフロアは中に踏み込むことはせず、外から声をかけた。地下道の石壁に反響して静かな声が渡っていく。闇を見透かすジョフロアの目にも、曲がりくねっている地下道にジークの姿は見えなかった。ただ、狼の鋭い感覚がそこに何かの存在を感じさせていただけだ。
ニコル:  
Mr.Lupus,…お声をかけて頂くのは初めてですね。光栄です。
   
意図的なものなのか、地下道の床の隅には微かに光を放つ苔が生え、ぼんやりと辺りの空間をわずかに照らしている。そこに現れた人影の白い肌が闇の中で苔よりもずっと燐光を放っているようだ。彼は数段上の入り口に立ったジョフロアの姿を仰ぎ見てそう言った。
ジョフロア:  
…ニコル? これは…失礼しました。てっきり…。貴方にはエドリックが御世話になっているようで、彼から聞いています。血の気多い彼が、なんだか最近穏やかなんです。これは貴方のおかげかな? さすが名前にフォンがつく方だ。彼が夢中になるのも分かる気がします。ニコルと呼んで構いませんね?
   
ジョフロアは足場の悪い入り口を身軽に飛び降りた。そして、足音も立てず歩み寄る。暗闇に映えるニコルの美貌と端正な身のこなしを間近にして、ジョフロアが静かに感嘆の息を吐いた。礼儀を知るヴァンパイアは敬意の意を小さな微笑に込めてうなずいた。
ニコル:  
喜んで。それでは私もジョフロアと呼ばせて頂けませんか? 貴方の慎ましやかなお姿としなやか動線はいつも私の視線の片隅にありましたよ。…エドリックが私の事を..…? それは貴方に少しでも構って欲しいからでしょう。彼は私の前では貴方の名をよく口にしますよ。貴方がた二人には、とても堅い絆の様なものを感じます。
ところで、あのカーテンは貴方が…? 確かに…派手ですね。部長の持ち物でしたか…なるほど…。ではあれは私から部長に返しておきましょう。
そのことで貴方は先ほどジークに話しかけられていたようですが…何故、彼に?
   
フレイ率いるエスコート部の部員であるニコルなら、自然に返す機会もあるだろう。そう申し出てから、ニコルは少々怪訝そうに首を傾げた。ジョフロアが説明した光耀寮での出来事を、ニコルは興味深そうに聞いていた。
ニコル:  
そうですか…。この地下道はここ学園内では異質の空間で、歴史的財産価値があるのも頷けます。ジークが寝床に選んだのもその辺りからでしょう。…でも、彼が本当に目障りなら人には言わないはず…自分で処分します。それをわざわざ今回Mr.景虎に申し出たというところに私は少々戸惑いを感じずにはいられません。
ジョフロア:  
確かに、苦情などという理由でもなければ、誇り高いあの方から人間の元に出向く事はあり得ないでしょう。つまりは、接点を望んで下さったのだと理解して良さそうですね。今は物別れに終わっても、幸先は悪くなさそうだ。どうぞ、僕のこともジョフロアとファーストネームで。
それから、ピンクのカーテンのことですが、ありがたく申し出に甘えさせていただいていいですか? 本来なら彼にお礼を言うところだけど、理由が理由だけに恥ずかしくって…。
ニコル:  
ああ、…このピンクのカーテンの理由は…そ~いう訳でしたか。…どおりでジークが彼に絡んだはずだ。
ジョフロア:  
…いや。…でも。理由わかりましたか? まずいな…。それで、どうりで彼が絡むはずだって…? まさか…そういう事ですか? うわぁ。もっとまずいな。… あっ、そうですね。…いやぁ。…しかし。…そうなんですか、ジークが? …ああ、どうも。エディには宜しく伝えます。
ニコル:  
貴方ってとても可愛い人ですねジョフロア。いや、可愛いなんて言い方、男性には失礼でしょうか…。そうですね、多分ジークは気付いていると。我々は閨の生き物です。ヴァンパイア自体がそうだとは言いませんが、少なくとも我々はその類いには敏感です。以後お見知りおきを。
   
耳元を微かに染めて狼狽したジョフロアの様子を見つめるニコルの表情は、好意に満ちて優しかった。けれど、自分たちの秘め事を語る目は不思議な魔力を潜めてでもいるように妖しく光った。その力がかえってジョフロアに冷静な思考を取り戻させた。ニコルの言葉は彼にとって重大な意味を孕んでいた。
ジョフロア:  
その妖艶な眼差しで言われると、惹き込まれそうだな。…そうですよね。気付いてもらう為にあの色にしたのに、分かったと言われると流石に気恥かしいものです。
ところで、そんな理由で彼に絡むジークって…。もしかして、暉堂のエネルギーに興味を持っているんでしょうか? …確かに彼には、今どき珍しいくらいの熱い血潮が流れている。だけどその分、どんな事をしても抵抗するでしょう。それが余計大事に至らないとも限らない…。
   
不意に一陣の風が吹いた。彼らの間に流れていた穏やかな空気を消し去る冷たい風。思わず一歩退いたジョフロアの前に、立ちはだかるように現れたのは地下道の主だった。ニコルを鋭い瞳で制止した彼はジョフロアに向き直った。
ジーク:  
そこまでだニコラウス。余計な事は言うな。…やあ、親愛なるGeoffroy。 誰も自分のカードは見せないものだろ? それとも君はあの東洋人にすべてを見せてしまったのかい? あの切れた鎖が君のカードだとするなら、この私でも少々嫉妬を覚えるよ。
   
秀麗な顔に浮かんだ淡い笑みは、どこか仮面のように薄っぺらく見えた。その下に隠された本当の表情はどんなものなのだろうか。一瞬、ジョフロアはそんなことを考えた。ジークの言葉の意味はつかみきれない。彼は小さく首を振ったが、やがて静かに答えた。
ジョフロア:  
僕にとってあの鎖は負の要素しかないのに、なぜ卿が嫉妬などと…。寧ろあれは、切り札というより地の底に埋めしてしまいたい僕の恥部ですのに。ですが、卿が嫉妬して下さるのならば僕はきっと幸せ者なのでしょうね。感謝します。もう余計な憶測は致しますまい。では、失礼しました。
ジーク:  
Geoffroy,  何故その翠の瞳がいつも憂いているのか分かったよ。恥部だなどと言うな。むしろ誇りに思いたまえ。実に惜しい逸材だな君は。
   
もと来た道を戻り立ち去るジョフロアの背をジークの声が追いかけ、そしてゆっくりと闇に消えていった。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


第六幕

◆アレクサンドル・G・D の独り言
日本に来て随分経つけど、僕はあの夏の暑さよりも冬の方が好きだ。寮の談話室にある暖炉の前にいると ここが日本だって事、忘れさせてくれる。ここもそれなりに楽しいんだけど、何故か妙に不安に思う時があって、そんな時はニコルのベットに潜り込んで一晩中泣いたりして...ダメだなぁ。僕の方がニコルより生きてる年月は長いのに。

一旦はジョフロアにアレクとの話し合いを止められた景虎だったが、ジークとの対峙を経て彼は素早く行動に出た。そして深夜、談話室の火の落ちかけたマントルピースの前で目当ての人物を探し出した。

◆寮の談話室での会話
景虎:  
おい、G・D。また暖炉の前か、相変わらず猫のような奴だな。聞きたいことがある。地下で目覚めた棺おけ王子の事だ。
アレク:  
あ、こんにちわ。え? 地下の棺桶....ジーク?  あれ、なんで景虎くんがジークの事知ってるの?  僕、前に話した事あったのかな?  いや、そんな事より、大変だ!
   
足音も荒く現れた景虎にいきなりそう切り出されて目を丸くしたアレクだったが、話の内容に思わず声を上げた。まるでそれを聞きつけたようなタイミングで、軽い足音が螺旋階段を昇って彼らの目の前にニコルが現れた。彼は景虎がそこにいる理由を瞬時で察した。
ニコル:  
やっぱりここだと思ったG・D。あっ、Mr.景虎、こんにちわ。珍しい。貴方が私達に声をかけるなんて。ジークの事ですが、貴方がたにご迷惑はおかけしませんよ。そんなヘマは彼はしない。ご安心下さい。
景虎:  
何が大変で、どんなへまをしないのか具体的に話せ。俺はお前たちの生態に興味はないが事実の把握は仕事のうちだ。
アレク:  
景虎くん、あのね、ジークはとっても ええっとなんて言ったらいいのかな...古狸! 具体的にって言われても僕、困るな。
ニコル:  
Mr.景虎、G・Dの言う事はお気になさらず。貴方の懸念はこの学園内に事件を持ち込まない、という点だと思いますが、私達はそのつもりは毛頭ありません。騒がれて困るのはこちらも同じです。但し、閨の出来事については その範疇外とだけ申し上げておきましょう。
   
硬い表情の景虎の黒い目が、不愉快そうに細められてじっとニコルを睨んだ。
景虎:  
閨? なるほど? どこぞの金髪気障野郎がお前らの色気に迷ってどうなろうと俺の知ったことではないが、他の人間については同意があるのだろうな。どこから何を吸い取ろうと。
ニコル:  
同意? Mr.景虎、貴方は閨の情事に相手の同意を得るのですか? わかりました。貴方の時はそうしましょう。機会があるとは思いませんが。
景虎:  
当然だ。お前らのエサになどなってたまるか。誰から何を吸おうと構わんが、相手の体や心を狂わせるような真似はするな、と言っているんだ。それを棺桶の奴にも確認しておかねばならん。
   
少し当惑したニコルがこの場を穏便に収めようとしているのに、景虎は苛立たしげに声を荒げた。すいっと空気が動いて、いつの間にかジョフロアが景虎の背後から姿を現しニコルを安堵させるように微笑みかけた。こんなことには慣れているのか景虎は不快そうにジョフロアを一瞥したが無言だ。
ジョフロア:  
遺恨を残さないように、完全に魅惑してしまうのかな。言葉ではなくても、同意を感じてからするのが紳士というものですからね。それとも、秘密が漏れないように相手の記憶を消し去るのでしょうか。
すみません。突然失礼します、ニコル、アレク。学生の安全を守る立場上、もう一つ気になるのは、閨の後の健康と精神面です。事件を持ち込まず秘密理に行われるというのなら、痕跡は極力残さないはず。この件でこちらが問題ないと納得できる手法を伺わなければ、彼はこの場を立ち去れないかと。
ニコル:  
Mr.景虎、相手の心や身体を狂わせるかどうか、私自身にはわかりません。相手当人に直接伺ってみられてはいかがでしょうか? 最も覚えていればでしょうが。それから、私の言動が貴方のお気に障ったのなら謝ります。
ジークフリード:  
無粋だな東洋人。それとも、これは閨術に対する考えの違いだろうか。そもそも我々がここの人間に手を下そうが下さまいが心身に病を来すモノは来す。人とはそういう生き物だ。絶対たる安全などこの世に存在しない。
どんなやり方で我々が搾取しているかを君は知りたい様だが、それは教える類のものではない。自身で試してみたいなら話は別だ。大体 「どんな健全なセックスを貴方はしていますか?」 と君は街角の人間に聞くのかい? 少々滑稽にも程があるな。
   
静かな、けれど低く通る声音がどこか面白がるような色を滲ませてその場に流れた。景虎は視線を巡らせ、憶えのあるオーラを秘めた闇の一点を睨んで唇を引き上げた。
景虎:  
ほう、悠長な登場だな、銀色古狸。お前が街角で何をしようと俺に関係があるか。だが学園内では勝手はさせん。まあ、狩りの手段を獲物のたぐいに晒す筈もないか。では、判断はこちらでする。俺は現在の学園の管理者だ。お前たちの保護を代々申し送られているが俺の知ったことか。お前が面倒な存在ならそこの2人も一緒に叩き出してやる。
アレク:  
景虎くん、怒らないでね。僕、喧嘩は嫌いなんだ。ジークも言い過ぎ。それに、いきなり目覚めてきて僕にキスの一つもなし?
   
暖炉のぱちぱちと鳴る音だけが部屋に響く中、ゆらりと暗闇から影が動いた。それは人の形となってアレクの姿と重なり、その桜色の左頬に軽く触れた唇から色が移ったように全身に色彩が広がっていく。銀の髪、翠の瞳は彼らと同じだが、纏う気配はずっと深遠で重厚だった。
ジーク:  
古狸だって?
   
からかうように薄い笑いを浮かべ、右中指でアレクの額を軽く突く。それを横目でちらと見たニコルだったが、さして表情を変えるでもなく自身の口をこう割った。
ニコル:  
Mr.Lupus, いつもお気遣いありがとうございます。
さて、先程の貴方のおっしゃった件ですが、我々は何も危害を加えようという訳ではないのです。ただ、自身について多くを語る訳にはいきません。それは、長年生きてきた智慧とでも申しましょうか。そこを多少なりともご理解頂きたいのです。お分かり下さいますか?
ジョフロア:  
怒るなんて…アレク。大丈夫ですよ。でも、お察しするに…。閨に行った者は、少々倒錯的ではあるが魅惑的な快楽を体験する。けれど危険に対する記憶は抜かれてしまう。という解釈で構わないようですね。それならば、心に宿る病は恋心、そして身体に残る病は激しい快楽への要求というところでしょうか。それは学園の教育方針で何とかなりそうだ。となれば、心配すべきは常習性というところかと思います。下の滴ならば問題ないでしょう。しかし血液は健康に影響します。閨では血液の採取はあるのでしょうか? それを抑えて頂ければ、こちらが輸血用の血液を提供しましょう。
それでいいですよね、理事長代理。
景虎:  
断る。余計な申し出など必要ないさ。頼まれてもいないことを。自前で何とでもするだろう。
ジョフロア:  
彼らもうちの制服を着ている限りは、あなたが守るべき生徒です。双方の平和と学園の平和の為に、まずあなたが医務室で献血してくるべきかと。彼らを相手にするなら、血の気の多さは文字通り命取りになりますからね。
どうか穏便に願います。後の理事長代理の小言は全部僕が引き受けますから。
景虎:  
は! こいつらが俺の血を欲しがるものか。俺はこれでも人外の者に理解はあるほうだ。落としどころが無ければ、一般生徒を優先させて当然だ。
   
景虎の言葉は取り付く島もない。理解の道を探そうとするジョフロアやニコルの努力もむなしく、歩み寄りの気配もないのはジークも同じだった。
ジークフリード:  
Dear Geoffroy, 生憎我々は輸血用の血は受け付けない。それなら飢えて絶える方を取る。我々はこれと選んだ者からしか搾取しない。君も誰彼なく自分を晒したりしないだろう? それと同じだ。更に言わせてもらうと、教育方針を掲げるなど馬鹿げているな。悦楽を前に人はあれほどの姿を我々に曝け出す生き物なのに。お笑いも甚だしい。でも、君のその少々困った顔は嫌いじゃないね。
景虎:  
ルーパス、時間の無駄だ。交渉は決裂ということで異存はなかろうな、古狸。何かことが起きれば、お前の棺おけもろ共、地下道をぶっ潰して陽の射さない場所をなくしてやる。
ジークフリード:  
そこの東洋人。貴様がどこの誰かなど どうでもいい。心配するな。お前が叩き出さずとも 我々は立ち去る時期位、容易に察知する術は心得ている。そんな事より、その血の気の多さがどこから来るのか興味がある。せいぜい浅い眠りには気をつけたまえ。
   
あいにくと俺は寝つきも眠りもいい方だ。それに俺もこれと選んだ者からしか搾取されたくはないのでな、お前など当然願い下げだ。いいか、面倒を起こすな銀色古狸。さっさと棺桶に戻れ。 これ以上は時間の無駄だ。
ジーク:  
ピンクのカーテンの主は君だろう? 退散したいのは山々だが、あんな趣味の悪い物を置いて行った君に言われたくないな。
景虎:  
おや、結構詮索好きの男だな。棺桶の主が紳士的だったというのはガセネタか。言っておくが “あんな趣味の悪い物” は俺の趣味でも持ち物でもない。
ジーク:  
詮索好き? 事と相手によるな。ではその 「趣味の悪い物」 の中で事に及んでいたのはどこのどいつだろうな。
景虎:  
さあな、お前の知ったことではないことは確かだろうさ。
アレク:  
景虎君、ダメだよ。ジークの手に乗っちゃ...。
   
不毛な会話を繰り返していがみ合う二人の間に入ったアレクの声が景虎の耳に入ったがどうか。
ジーク:  
そうか。知った事ではないか。それなら、こちらも好きにさせて貰うとしよう。君は管理者だと言ったが、ケンカを売りにきたのかい? 何なら高く買うよ。こ~いう取引は嫌いじゃない。
景虎:  
俺はヴァンパイアと取引はしない。信用できんからな。
ジーク:  
取引はしないか....。まあ、東洋人にしては妥当な線だな。そうして君が石橋を叩き割るさまを見届けるのも悪くない。
景虎:  
石橋を叩き割る? 俺は慎重なわけでもない。お前らの存在が気に食わんだけだ。
ジーク:  
ほう、存在自体を否定されてしまったか。それはそれは...不快な種で悪かったな。我々は君が思う程、悪い種でもないはずなんだがね。君と話していると、笑顔を忘れてしまいそうになるよ。生まれて来る時に天国にでも置き忘れて来たのかな?
景虎:  
ヴァンパイアから天国の話を聞くとは笑えるな。お前たちから笑顔など不用だ。俺もこれと選んだ者からしか受け取らない性分でね。お前らが消え去った後には後腐れなく笑えるだろうよ。
   
景虎はこれ以上ないほどの険悪なオーラを背負ったまま踵を返して部屋から出て行った。その背を見送ったアレクが少々責めるようなまなざしで、薄ら笑いを浮かべたままのジークにため息をついた。
アレク:  
ジーク、君が起きてくるまで僕達、それなりに上手くやってたのにさ。
ジーク:  
あいつのは是非飲んでみたいな。どんな味がするか楽しみだ。ここを去るのはそれからでも遅くない。
   
景虎の背をため息交じりで見送ったのはジョフロアも同じだった。アレクやジークから少し離れた薄闇の中で、彼はニコルに説明を求めた。いつものように穏やかで冷静なジョフロアの言葉をニコルも真面目な表情で受け止めていた。
ジョフロア:  
ああ、行っちゃった…。……そうですか。…生き血を。それに貴方がたの引き起こす悦楽は僕の想像以上のようだ。そうなると閨に行った者の心と体の健康が心配です。そんな生徒が増える事は、貴方がたを保護している学園との関係として持ちつ持たれつにはなりません。契約とは一定の均衡の上に成り立つものです。僕も人間ではありませんが、少なくとも誰にも借りを作っていないという自負がある。貴方がたはどうです? ねぐらを保護している学園に対して、貴方がたのブライドは何も疼かないと? 
…それからエディは本気ですよ、ニコル。彼は誰に対しても真正面から本気です。でも、呆けて血の気の失せた彼を見るのは嫌だな。彼が彼じゃなくなってしまうから。お互いの平和を追求できるような、共存の方法はないのでしょうか? 例えば、少しだけ加減するとか…。この次に会う時までに、歩み寄りを期待してます。では、今日のところはこれで。
ニコル:  
Mr.Lupus, 貴方の苦言は最もです。私達も今回は少々度が過ぎました。ここで暮らす限り、我々に関わる人々の身の安全をもう少し気遣う様 今後は努めましょう。借りを作るのは私達も本意ではありません。Mr.景虎には貴方からその様にお伝え頂けると有り難いです。
それから、エドリックが本気だと貴方はおっしゃるのですね。...素直に嬉しいです。彼には何故か惹かれるものがあります。それは貴方に対して感じるものとかなり似通っています。それに呆けた彼を見たくないのは私も同感です。加減ではなく、そんな状態にはさせたくない。今宵は貴方と意見が一致したところで退散します。どうぞこれからの長い夜をお楽しみ下さい。

そして、その夜…

エドリック:
(寝言で)
 
…う…ん…ニコル…ジョフ…どっちも愛してる
どっちか選べって? …冗談だろう? 私は博愛主義者だ…
…馬鹿だな…気に病むな…
Your Loyal Heart, Edric
ニコル:
(耳元での囁き)
 
エドリック、選ぶ必要なんかないですよ。貴方の心の片隅に置いて頂く、それだけで私には充分です。
ジークフリード:  
馬鹿だな。人を好きになるな、とあれ程言っているのに...。所詮、人など我々にとって長い旅の停車駅に過ぎない。
G・Dがベットで寂しがっているぞ。お前は私の側にいればいい。私の小さいニコラウスよ。

拍手

PR

Copyright © 月と空のコラボ空間 : All rights reserved

「月と空のコラボ空間」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7 & Zippy
忍者ブログ [PR]

HOME