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不知夜月とJardin de ciel(空の庭)のコラボ頁です。

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のどかなる恩恵の季節 3

舞台に立って皆と楽しみたいアレク。しかし、ヴァンパイアに人前で目立つことは許されない。アレクの心情を思いながらも諭すニコル。一方、フレイとエドリックはアレクを舞台に立たせる方法を思いつくが。当日の幕が上がり、二人の漫才が始まった…。


エドリック:「さて。二人だけが残ったぞ、フレイ。損な役どころが回ってくるのも、役付きの宿命かな…。なあ、君がボケろよ。私が突っ込むから」10/16 21:53
フレイ:「……」10/16 22:48
ナレータ-:「フレイはエドリックの言葉を聴きながら二人の後ろ姿を見送った。ちょっと重たげなため息をつく。」10/16 22:49
フレイ:「…やっぱり、一所に長居するのは危険すぎるな…」10/16 22:52
ナレータ-:「しばらく考えこんでいたフレイがふっと思いついたように顔を上げてエドリックを見詰めた。ちょっと悪戯けな瞳がきらきらしている。」10/16 22:55
フレイ:「そうだ…。とにかく、アレクだと誰にも分からなければいいんだろう?」10/16 22:57
エドリック:「また君の得意な仮装か? まあ、いいだろう。…それで私が振られ役なんだろ、どうせ。君の好きなようにしろ。道化でもなんでもやってやる。巡り巡ればニコルのためだからな」10/16 23:03
フレイ:「君ってほんとに…いい男だな、エドリック。そうそう、ニコルとアレクと、豪華賞品のためだ」10/16 23:08
エドリック:「…ところで、その豪華賞品ってなんだ? もちろん私にも受け取る権利があるんだろうな?」10/16 23:17
フレイ:「う~ん。ま、君にも必要はあると思うよ? 私はこの間ジョフロアに蹴られちゃったからねぇ」10/16 23:21
ナレータ-:「ふふっと笑って肩を竦める。ジョフロアに蹴られたといえば物理の試験問題の漏洩の筈だ。エドリックにはピンと来たものがあったらしい。単位という豪華賞品がリボンをかけられてフレイの頭上に浮んでいる幻が見えた。」10/16 23:22
エドリック:「…ちょっと待て。馬鹿にするな。伊達に生徒会長しているわけじゃないぞ、私は。単位は十分に足りている。卒業要件を満たしているどころか、成績優秀者リストに載るくらいなのに…」10/16 23:32
ナレータ-:「エドリックは何かに思いついたように、フレイを睨みつけた。」10/16 23:42
エドリック:「君は、最初は私とニコルにやらせるつもりだった。そして、プロデュースしたとかなんとか吹聴して、賞品を掠め取るつもりだったんだろう? だいたいそんな賞品を理事長にねだるのは君ぐらいしかいないからな」10/16 23:42
フレイ:「ビンゴ! ニコルも君も要らないのなら話しは早いな」10/16 23:52
ナレータ-:「悪びれもせずフレイが笑った。」10/16 23:53
エドリック:「この借りは大きいぞ。分かってるんだろうな。え、フレイ?」10/17 00:10
フレイ:「君に? 君は騎士だから姫のニコルのために動くんだろ? 私は関係ないさ?」10/17 00:25
エドリック:「それじゃまるで君は泥棒猫だろう? そんな汚名を親友に着せるのは、友達甲斐がないというものさ。なんか奢れ。美味いものでも食わせろ。そうでもしないと、やる気が起きん。そうなれば、賞品だって遠のくだろうな」10/17 00:39
フレイ:「じゃ私のキスを一つ」10/17 00:43
ナレータ-:「どこまでも喰えない男だ。」10/17 00:44
エドリック:「流行りのエコか。確かに消費量は最小限だな。それよりも…美味いのか、それ?」10/17 00:49
ナレータ-:「エドリックが、そのキスを値踏みするように、人差し指でフレイの唇をなぞった。エドリックもあっさりかわして、どこ吹く風だ。」10/17 00:59
フレイ:「さあねえ? 味は君次第だろうね」10/17 01:11
エドリック:「エスコート部長なら、キスのテクニックぐらい身につけてるのかと思ったが…」10/17 01:27
ナレータ-:「エドリックは、なかなか折れないフレイにいささか愛想を尽かしたように大きく溜め息をついた。」10/17 01:28
エドリック:「出すものは舌でさえ出したくないようだな、悪徳商人。まあ、いいさ。そのうちビジネスにおけるコンプライアンスについて、学ぶ事もあるだろう。ちゃんと勉強しとけ」10/17 01:28
フレイ:「そうじゃないよ。エドリック。君は今、ニコルに恋をしている。彼のキスなら例え頬にされても甘い幸せな気分になるだろ? そんなとき私とキスして気分が高揚でもするかい?キスって好きな相手にされてこそ美味しいんだろ」10/17 01:38
ナレータ-:「ほんの少し切なげな微笑。」10/17 01:39
フレイ:「成功の暁には、ニコルに秘蔵のお菓子を持って行かせるよ。…おいりって言うんだ。知ってるかい?」10/17 01:41
エドリック:「…さあ、聞いた事ないな。なんにしても、ニコルが喜ぶものなら全てウエルカムだ。私はニコルの笑顔だけで我慢するとしよう」10/17 01:50
ナレータ-:「エドリックは踵を返してフレイの元を立ち去ろうとした。だが、ふと振り返る。」10/17 01:50
エドリック:「だけどな、フレイ。最初に益にもならないキスを提供しようとしたのは、君だ。もちろん断るつもだったがね」10/17 01:51
ナレータ-:「人差し指でフレイを指差しながら言う。けれどエドリックは、少し切なげなフレイの顔をみて、また大きく溜め息をついた。」10/17 01:56
エドリック:「…なあ、フレイ。君に好きな奴がいるんなら、なんとか力になってやるよ」10/17 01:56
フレイ:「もちろん断ってくれるだろうからさ。悪いね。泥棒猫の悪徳商人で」10/17 01:57
ナレータ-:「エドリックの後の問いには答えず、悪徳商人には似合わない優しげな笑みを浮かべる。」10/17 01:59
エドリック:「君みたいなのは一生報われない恋でも抱えてろ。せいぜいその容姿だけに寄ってくるハーレムで満足するんだな」10/17 02:04
ナレータ-:「手をひらひら振って、エドリックが足早に去っていく。いつもこんな感じだ。彼らはとことん言い合う。そして、なんだかんだと再び同じ場に居る。」10/17 02:07
フレイ:「おかげさまで。相手にはこと欠かないんだ。ふふっ」10/17 02:08
エドリック:「意地っ張りめ…」10/17 02:10
ナレータ-:「エドリックがそう呟いて、横にあったゴミ箱を蹴飛ばした。ころころと転がったそれを尻目に、彼は歩調を緩めなかった。」10/17 02:11
効果音:「ぱた...ん」10/17 04:02
ナレータ-:「茶色を基調とした重厚な調度がしっくりなじむ光耀寮の端部屋。素性柄、一番人の往来が少ない場所に位置している。部屋に戻るとニコルは上着を脱ぎ無造作にそれを中央のテーブル椅子にかけ、リボンタイを右手の人差し指で緩めながら部屋には入ったものの未だドアの前で突っ立っているアレクに声をかけた。」10/17 04:27
ニコル:「君も上着くらい脱げよ。喉が渇いたな。お茶でも煎れようか...ここに座って、GD。」10/17 04:29
ナレータ-:「キャビネットからアレク専用のワイルドストロベリーと自分用のユーランダーのカップを取り出しテーブルに置くとニコルは奥のキッチンへ向かった。一方のアレクは躊躇いつつも言われた通りに中央の椅子に浅く腰掛けたが、先程ホールでニコルに叩かれた右の頬に自然と手が伸びる。そこへティーポットを持ったニコルが戻り、いつもの手際良さでゆっくりとダージリンを注ぎアレクの前に置くと、ふわりと良い紅茶の香りが辺りに満ちた。」10/17 05:05
アレク:「僕、はしゃぎ過ぎた?」10/17 05:09
ニコル:「少しね」10/17 05:09
アレク:「そっか...」10/17 05:13
ニコル:「なんで怒ったか分かってるよね?」10/17 05:15
アレク:「うん」10/17 05:15
ニコル:「俺達の素性を知っている者だけがいる場所なら別に構わない。でもね、そうじゃない場所では余計な言動は控えるべきだと思う。だって迷惑がかかるだろ?今日はエドリックがフォローしたから良かったようなものの、いつもそうとは限らない。多分、今までも生徒会やエスコート部のトップである彼らが俺達の事を上手く廻りの人間にフォローしてくれてるはずなんだ。そこのところを、もっと君は自覚した方がいい。....おかわりは?」10/17 05:32
ナレータ-:「ニコルの言葉に小さく首を横に振る。チャコールグレイの遮光カーテンの隙間から柔らかい日差しが斜めに差し込みアレクの揃えた足元まで伸びている。ふとアレクの脳裏に景虎の無愛想な顔が浮かんだ。」10/17 05:40
アレク:「それ、もしかして景虎君も同じかなぁ....」10/17 05:41
ニコル:「多分ね。ここにおける最終的な俺達の尻拭いは彼の仕事の内だ。理事長の耳にそれらが届くわけにはいかないし、エディやフレイが拾い切れなかった事柄もあるはずだ。恐らく君が考えてるよりも その仕事量は実際あるんじゃないかな...彼、言わないだけで」10/17 05:49
アレク:「そう...ニコルはいつそれに気付いてたの?」10/17 05:54
ニコル:「最近。だって、前にここで棲んでたどんな時より数段過ごし易いもの。勿論、時代の波もあるけど、こ~いうのって、俺達を匿うここの「暉堂一族」の責任者の器の大きさに比例してるのかもね。そういう意味では現時点のここでの人材は粒揃いなんじゃないかな。だから、君がはしゃぐのもわからないではないんだよ。でも、それに甘えちゃいけないと思う俺達。」10/17 06:06
ナレータ-:「ニコルの言う事はきちんと考えれば最もだと思う。こんなに楽しかった時間(とき)を過ごした事はニコルが人間だった頃を除けばなかった。人ではない異物である自分がここまで受け入れられるには、それ相応の背景があって然りだ。紅茶を飲みながらアレクは窓の外を見た。優しいオレンジ色のグラディーションに染まるまんまるい大きな夕陽が今にも山肌に隠れようとしている。先程ニコルに叩かれた右の頬の痺れた感触が、アレクの中で穏やかなそれへと変わりつつあった。」10/17 06:19
アレク:「やっぱ おかわり」10/17 06:20
ニコル:「はい」10/17 06:20
ナレータ-:「ピンク色の頬に涙の痕はもうない。今、彼らが過ごしているこの穏やかな時間の事を、いつかこの先2人で思い浮かべることがきっとあるだろう。永遠の時を旅する者達にも恩恵の季節はあったのだと。」10/17 06:25
ナレータ-:「学園初のお笑いコンテストは盛況だった。エドリックとフレイの二人のコンビはなかなか息の合った舞台を見せた。ハーフの二人が題材に選んだのは「日本の御伽噺」。今度、学園で劇をすることになったというエドリックに、フレイが自分らしい王子様をやりたいと訴える。エドリックは本を片手に首を傾げた。早口でぽんぽんと掛け合いを続けていく二人の声は歯切れ良かった。」
エドリック:「王子様ねえ…日本の御伽噺ってカッコいい役が少ないからな。これなんかどうだ、浦島太郎」
フレイ:「おお、どんな話?」
エドリック:「亀を助けて」
フレイ:「ふんふん」
エドリック:「舞い踊って」
フレイ:「ふんふん」
エドリック:「爺さんになる」
フレイ:「はしょるなよ!…どこがカッコいいんだ! ダメダメ!」
エドリック:「じゃあ…金太郎ってのはどう?」
フレイ:「どんな話?」
エドリック:「熊にまたがり」
フレイ:「ふんふん」
エドリック:「お馬の稽古。最後に偉い武将になる」
フレイ:「いいね! 私向き」
エドリック:「でも衣装が」
フレイ:「衣装が?」
エドリック:「金太郎がけ…うしろすっぽんぽん」
フレイ:「おおっと! うしろから金○○丸見え金太郎!…ってどこがカッコいいんだ! 熊のかわりに君に乗っちゃうぞ!ダメダメ!」
エドリック:「あ~うるさいな。じゃ、桃太郎」
フレイ:「おお、ピーチボーイね」
エドリック:「お供のサルに食われて終わり」
フレイ:「そりゃ好物だから。って何でやねん! エドリ~ック!!」
エドリック:「分かった分かった、一寸法師」
フレイ:「どんな話? 一寸って何だい?」
エドリック:「3センチってことだよ。さるところが一寸しかないチェリーボーイの話」
フレイ:「子供に聞かせられるかいっ!」
ナレータ-:「面倒くさそうにどんどん話が脱線していくエドリックにフレイが食い下がる内容だ。場はそこそこ沸いて意外な二人の姿に学生たちは大喜びだった。」
エドリック:「君にぴったりの役があるよ、出番の多い役なんだ」
フレイ:「おお、どんな役?」
エドリック:「髪が黄色だったり赤かったり」
フレイ:「なるほど」
エドリック:「鼻が高くて身体が大きくて」
フレイ:「ふんふん」
エドリック:「衣装は虎のパンツ」
フレイ:「鬼かいっ! 大体、エドリックだって同じ様な容姿だろうが!」
エドリック:「うるさいな~。日本の御伽噺は綺麗な姫様が主人公のが多いんだ。君、姫をやったら?」
フレイ:「姫? いいねえ」
エドリック:「と思ったけど、君はでか過ぎる。誰か姫役はいないかな」
ナレータ-:「エドリックが客席にそう問いかけると、一番前の席から一人の少女が立ち上がった。少女、というには背が高いものの華やかな振袖を着こなした黒髪の女の子。」
アレク:「はいはい~! ぼ…じゃない、わたし、やる!」
ナレータ-:「二人に手を添えられて舞台に駆け上がると、粋な演出にワッとこの日最大の歓声があがった。学園の行事には招待客がつきものだ。もちろん妙齢の令嬢も居る。けれど、今まで舞台に上がった人間はいなかったし、何よりもその少女が誰よりも愛らしかったからだ。誰だよ、誰かの知り合いか? フレイの彼女か? ざわめきと派手な拍手が広がっていく。長い黒髪に大きな瞳。コロコロと笑う表情が何ともかわいらしい。桃色の振袖をはためかせながら少女は、フレイとエドリックの間でテンポよく会話を重ねていく。この後、伝説の美少女として語り継がれることになるアレクの華やかな舞台だった。3人はその日一番の喝采を受けエドリックはトロフィーを、フレイは単位をひとつ手に入れた。楽しげな3人の姿を、遠い座席からニコルとジークが、そしてモニターの映像越しに景虎とジョフロアが、それぞれの抱える日々を暫し忘れ、のどかなる春の爛漫を楽しんでいた。」

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