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不知夜月とJardin de ciel(空の庭)のコラボ頁です。

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“ギムナジウム・コンツェルト”第一幕 奇想曲 - capriccio 【2】

悠久の時を生きるヴァンパイア、ジーク。さすがに一筋縄では行かない気配が…。


ナレータ-:「消灯時間をとっくに過ぎた夜半遅く、規則正しい一つの足音が光耀寮の廊下に響いている。」10/30 00:41
効果音:「カツカツカツ」10/30 00:42
ナレータ-:「足音が止まった。ドアノブに手を掛け扉を開こうとした右手の動きが一瞬止まる。背後に人の気配。振り返らなくてもそれが誰なのか景虎には検討がついていた。廻りの空気が動かない。」10/30 00:42
ジーク:「おかえり」10/30 00:46
ナレータ-:「GDに電話をして、ジークを呼び出すよう依頼してから一ヶ月が過ぎようとしていた。」10/30 00:51
景虎:「随分と寝坊なことだな、ヴァンパイア」10/30 18:04
ナレータ-:「景虎は相手に向き直るとほんの少し眉を顰めた。彼の立場でこんなに待たされるようなことはあまりない。彼の我が儘さが少々覗く。景虎は自室のドアを開けるのをやめて談話室に歩を向けた。」10/30 18:06
景虎:「この一月、眠っていたのか?」10/30 18:08
ジーク:「だったら?」10/30 18:41
ナレータ-:「相手の苛立ちはジークにとって旨い餌と何ら変わらない。同じ歩幅で一定の距離を保ちながら景虎のあとに続く。」10/30 18:47
ジーク:「少々上等な餌にありついたのでね。その余韻に浸っていた。」10/30 18:48
ナレータ-:「悪びれた様子でもなく言葉を続けた。」10/30 18:51
景虎:「100年位浸ってりゃいいものを…」10/30 19:10
ナレータ-:「誰のことだろうかとの思いは頭を掠ったが、景虎はそれは問わなかった。談話室の暖炉の火はすでに落ちているが空気はほんのりと暖かい。景虎は辺りに置かれている椅子のひとつに腰掛けた。」10/30 19:13
ジーク:「君が餌の時はそうしよう。」10/30 19:26
景虎:「千年でもお断りだ」10/30 19:35
効果音:「きっぱりと言うと景虎は要件を切り出した。」10/30 19:37
景虎:「ここのところ、随分起き出しているようだが。こんな状態がいつまで続く?」10/30 19:38
ナレータ-:「景虎が調べた限り、ジークが長く起きて学園に姿を表した時間はそう多くはない。記録はなくても事実はあるのかもしれないが、景虎には掴めていない。」10/30 19:40
景虎:「学園に居るのなら何らかの立場に収まらんと、他の学生たちの不穏を誘う。…以前、起きていたときはどんな立場だったのだ?」10/30 19:42
ナレータ-:「ジークが身に着けているのは学園の制服だ。学生であることは間違いないと思っても、居る筈のない者が深夜に徘徊すれば不思議がられるのは道理だ。存在を問われて、知らんでは済まされない立場に景虎はいる。」10/30 19:45
ジーク:「さぁ...それは君側の問題であって、私の知ったことではない。レディに聞けば?」10/30 19:47
景虎:「……。制服には制約がつく。それは分かっているんだろうな」10/30 19:54
ナレータ-:「理事長に連絡をつけるのが嫌でわざわざ本人に問うていることを理解しているのかどうなのか。喰えない男だ、と景虎が呟く。けれど、ジークが制服を身に着けている限りは彼は学園での存在を許された者であり、同時に学生としての制約を負うはずだ。」10/30 19:57
ジーク:「だから?....君はいつも私からの答を欲しがるね。 」10/30 20:12
ナレータ-:「いつもながら のらりくらりの返答が景虎の神経を逆撫でする。ジークは落ちた暖炉に薪を焼べ、息を手の平にふっと吹きかけると ちろちろと小さな音がし始めた。装飾が施されたマントルピースに凭れながら薄い微笑みを浮かべている。」10/30 20:13
景虎:「面倒を起こすなよ」10/30 20:27
ジーク:「同じ言葉をニコルにも言われたなぁ....」10/30 20:28
ナレータ-:「景虎の言いたいことはいつもそのひとつに集約される。どこでどんな騒ぎを起こすのか、人の思惑などまったく介さない化け物とどんな風に折り合えるのか、景虎にはどうしても掴みきれない。」10/30 20:30
ジーク:「案外、気が合うかもね君達。」10/30 20:34
景虎:「…俺は二人を追い出すつもりは今のところはない。だが、ヴァンパイアは一蓮托生だ。そういう意味なのだろう」10/30 20:34
ナレータ-:「事態が大きく変わるとすればジーク次第、ということだ。」10/30 20:36
ジーク:「君の玉座は遠いね。だが、祝福は惜しまないよ。」10/30 20:38
ナレータ-:「手に持った火掻き棒で薪の位置を器用に動かしながら、こともなげにそう呟く。ジークの示唆する景虎の玉座とは日本有数の一大企業群である暉堂グループ総帥の座。こんな時でも自分への本題は棚上げだ。」10/30 20:38
景虎:「ぶっ殺してやりたい…」10/30 20:40
ジーク:「いつでも」10/30 20:41
ナレータ-:「どうぞ、と微笑み返す。さっきからズケズケと景虎の神経を逆なでするジークの言葉に景虎が低く唸った。赤く燃え上がる炎を悔しげに睨み付ける。」10/30 20:43
景虎:「俺の玉座がどこにあろうとお前に関係あるか。…理事長推薦の短期留学生という立場が相当か…」10/30 20:53
ナレータ-:「ふっと息を吐き意識を外し、景虎は炎に向かって言った。」10/30 20:58
ジーク:「君は本題を見誤っている。私の存在が他の者達に認識されるはずがない。オーラ自体を消しているのだから。閨の記憶も残らない。まぁ、所謂霞のようなものだな。つまり、私は語る相手を常に選んでいるという事だ。」10/30 21:04
ナレータ-:「ようやく本題に触れようとした矢先、ジークが景虎にこう問うた。」10/30 21:13
ジーク:「ゴッホの「ひまわり」は何枚あると思う?」10/30 21:14
景虎:「? 複数枚あるとは聞いているが…?」10/30 21:16
ナレータ-:「何のことだ、というように怪訝そうに景虎が聞きなおした。」10/30 21:17
ジーク:「11枚とも12枚とも言われているが、現存では7枚、9枚と諸説ある。」10/30 21:30
ナレータ-:「暖炉の方から歩み寄り、ジークは景虎の正面のソファーにゆっくりと腰掛けた。」10/30 21:33
ジーク:「君が玉座を手に入れた暁には一番いい「ひまわり」を一枚、世に出そう。言ったろう?祝福は惜しまないと。必ず落とせよ。」10/30 21:33
景虎:「……」10/30 21:50
ナレータ-:「思わず景虎は絶句した。ジークの生きてきた歴史や長さ。そして秘められた閨の関係。そんなものの片鱗を垣間見る。」10/30 21:54
景虎:「…遠からず訪れればな」10/30 21:55
ナレータ-:「景虎は凝視していたジークの白い顔から目を逸らすと、再び炎に向かった。そしてしばらく沈黙する。」10/30 21:56
ジーク:「愉しみにしているよ」10/30 22:02
ナレータ-:「ソファーに頬杖を突き、逸れた視線の先を追う。パチパチと焔の爆ぜる音が広い談話室に響いている。」10/30 22:10
景虎:「……」10/30 22:28
ナレータ-:「景虎の目に映るのは炎の向こうにある玉座かもしれない。その直前にいるのは自身の母親である理事長だ。まだ遠い。意識の底にある感情が揺れる。けれどしばらくすると景虎は顔を上げた。ようやく気を取り直したらしい。ジークに向かって話の本題を戻す。」10/30 22:30
景虎:「…他者に認識されないというのは本当か。俺が腹立たしく不愉快にうんざりするほど、お前のオーラをガンガン感じるのにか」10/30 22:33
ジーク:「目に見えたとしても意識の隅に残らない。だが、君には「ガンガン」感じて貰えて私は嬉しいよ」10/30 22:47
景虎:「…俺はそう嬉しくはないんだがな…。だが、まあ、他の学生の意識に残らないというのならその点ではそれほど問題はないな…」10/30 22:52
ジーク:「余り心配ばかりすると早く老けるぞ」10/30 22:57
景虎:「誰が老けさせるんだ。お前が100年眠れば済む話だというのに…」10/30 22:58
ナレータ-:「いつになく大きな笑い声を立てるジーク。皮肉を言われている意識は彼にはないのかもしれない。むしろその会話を楽しんでいるかの様子だ。」10/30 22:59
景虎:「…とりあえずは了解だ。では帰って再び余韻に浸っていろ」10/30 23:06
ナレータ-:「景虎はふっと息を吐くと頷いて椅子から立ち上がった。二人でいてもお茶を出してくれる者もいない。」10/30 23:07
ジーク:「もし....」10/30 23:11
ナレータ-:「去りかけている景虎にふとジークが声を掛ける。」10/30 23:13
ジーク:「もし、今回の様に君が私を呼び出したい時は....満月の夜、君の小鳥を泣かせればいい。但し、普通の鳴き声では目覚めない。あとは小鳥自身に聞け。彼なら知っている。」10/30 23:16
ナレータ-:「どこまでが本気でどこまでが戯言なのか、彼の言葉の真意は掴み切れない。真意、それはどこにあるのかと、誰かが言った言葉。」10/30 23:34
景虎:「……」10/30 23:37
ナレータ-:「時折、ジークが口にするジョフロアとの不思議な関係。それは他のヴァンパイアたちの絆よりも感じられて景虎の神経を小さく刺激する。けれど、彼は頷いた。」10/30 23:40
景虎:「満月の夜には僧侶のように清く過ごすさ」10/30 23:41
ジーク:「殊勝な心掛けだ」10/30 23:48
景虎:「ひとつ、俺からの提案なのだが…」10/31 11:45
ナレータ-:「随分長い間考え込んでいた景虎が顔を上げて、ジークを正面から見た。」10/31 11:46
景虎:「一般学生にもお前の気配とやらを表して、学生の中で生活してみたらどうだ」10/31 12:25
ナレータ-:「短期間の留学生というふれこみであればたとえうまくいかなかったとしても、取り返しはつくだろう。」10/31 12:25
ジーク:「私は学生という立場になった事がない。」10/31 13:26
景虎:「どこぞの貴族の深窓の子息…というフレコミがあれば何とかなるだろう」10/31 13:28
ナレータ-:「いささか無茶な設定かもしれん、と首をかしげながら景虎が呟いた。」10/31 13:29
ジーク:「まともな箔とは思えんな」10/31 13:34
景虎:「長い人生なのだろう。そんなときがあってもいいのではないか」10/31 13:35
ナレータ-:「あの二人と机を並べるような機会があっても。退屈に飽いたジークの気配。景虎はそんな気がした。」10/31 13:36
ジーク:「ふ~ん」10/31 13:38
ナレータ-:「首を少し傾げながら、視線を辺りに走らせる。景虎の思惑の意図を探っているのか。」10/31 13:40
ジーク:「私に君の籠の鳥になれと...そんなとこか。」10/31 13:42
景虎:「学生となれば俺の管理下に入る。だが、守る一面もある」10/31 13:45
ジーク:「だろうな」10/31 13:46
ナレータ-:「どちらが本当は守られているのかは最終的に結果が物語る。だが、それを知る必要があるかどうかは誰にもわからない。」10/31 13:56
景虎:「…無理にとは言わんさ。俺も火中の栗を拾う程度の覚悟が必要だからな」10/31 16:56
ジーク:「なるほど。では考えておこう」10/31 19:18
景虎:「一月も答えを保留するな。準備期間がいる」10/31 19:19
ナレータ-:「景虎は腕を組んだままソファーの背にもたれかかった。この案が適当なのかどうなのか分からない。けれどこの学園の中で居場所を見つけようとしているアレクやニコルのためにも、お互いに譲らなければならない場もあるだろう。」10/31 19:23
景虎:「…お互いに掛け合う手錠のようなものだな…」10/31 19:25
ナレータ-:「ふと、景虎がそんなことを呟いた。」10/31 19:25
ジーク:「....」10/31 19:36
ナレータ-:「制約を受けることを最も苦手とするヴァンパイア。いつになく言葉の歯切れが悪い。お互いが手錠を掛け合う必要性を探しあぐねているのか、あるいは人間とはわざわざ無駄なことをする生き物だ、とでも思っているのか。」10/31 19:39
景虎:「…俺はGDに人の中で生きる努力をしろと言った。なら、俺も…同様に腹を括るべきだろう」10/31 20:45
ナレータ-:「沈黙したままのジークに向けて、景虎はゆっくりとそう言った。手のうちを全て見せた。そんな口調だった。」10/31 20:55
ジーク:「答えは...」10/31 21:13
ナレータ-:「ふぅと一息ついて、言葉を紡ぐ。」10/31 21:14
ジーク:「NOだ」10/31 21:14
ナレータ-:「今度は景虎の方がしばらく沈黙してジークを見詰めていたが、やがて静かに頷いた。」10/31 21:40
景虎:「…そうか」10/31 21:41
ナレータ-:「当然の返答だと思う反面、どこかで落胆している自分の心理を景虎は不思議にも感じていた。様々な命が様々な生き方を探る。だが折り合える道は少ないのだろう。」10/31 21:59
景虎:「では、特に話はもうないな」10/31 22:00
効果音:「景虎は椅子から立ち上がると暖炉に近づき、屈み込んでひとつ薪を投げ込んだ。ぱっと紅い火の粉が飛び、辺りを一瞬紅く照らした。」10/31 22:01
ジーク:「GDが何故、君に懐くのか分かったよ」11/01 00:28
ナレータ-:「カタン、と薪が音を立てた。」11/01 00:30
景虎:「何だって?」11/01 00:40
ナレータ-:「振り返り出口に足を向けたまま景虎が問うた。」11/01 00:43
ジーク:「一人くらい、君の廻りに私の様な者がいてもよかろうと思っただけだ。皆が皆、牙を抜かれたら面白くないだろ?」11/01 00:51
ナレータ-:「相手のYESを導く手腕。獅子の牙をも知らず知らずに削ぐ、その切り口。立場上可能なはずの、頭から無理矢理押さえつけるやり方ではなく、ふわりと足元から掬い上げる大きな手。人の上に立つ者だけに許された才能。甘受すれば、あとはどこまでも相手を守り抜く意思の強さ。景虎にはそれがある、と認識してのジークの言葉なのか...」11/01 00:51
景虎:「面白い? 俺はお前の楽しみの種か」11/01 01:03
ナレータ-:「呆れ顔で見下ろして、景虎はよく光る黒い瞳でジークを睨んだ。」11/01 01:05
ジーク:「よく覚えておけ。そこがYES、の場所だ」11/01 01:08
景虎:「なるほど。生き方の焦点が相容れんと言うわけか。…確かに俺はゲームのように生きているつもりはない。」11/01 01:14
ナレータ-:「景虎にとってはただ一度の生を全力で生きている。永遠をさまようヴァンパイアとの隔たりは大きいのだろう。景虎はそのまま談話室の扉に向かった。」11/01 02:07
ジーク:「折り合うだけが道ではないさ」11/01 02:07
ナレータ-:「相手に届こうが届くまいが別にいい、そんな口調だった。」11/01 02:08
景虎:「…この話はお前には戯言だったようだな」11/01 02:08
ナレータ-:「後ろから聞こえるドアの締まる音。その夜、談話室に残された人影は、いつまでも静かに爆ぜる暖炉の灯りに仄かに揺らめいていた。」11/01 02:08
ジョフロア:「すみません、ジーク。立ち聞きしてしまって…」11/01 08:06
ナレータ-:「談話室に続く廊下の暗がりからジョフロアが姿を現した。一度会釈をし、決然とした表情でジークのエメラルド色の瞳をじっと見つめる。」11/01 08:06
ジョフロア:「さっきの暉堂の提案は、確かにお互いに制限も負担もかかります。でもあれは、貴方となら一緒に難壁に挑んでみたいという暉堂の気持ちの提示だったと思うんです」11/01 08:06
ナレータ-:「普段温厚な彼には珍しく、彼は直ぐ本題に入った。少し訝しげな相手の表情も構わずに続ける。物事には個人の事情もある。だからジョフロアにはジークの答えがYESであろうがNOであろうがどちらでも良かった。ただ、ジークが回答の如何に終始してばかりで、その根底にある景虎の真剣な気持ちを弄んでいるように見えるのが納得できない。」11/01 08:06
ジョフロア:「なのに貴方が牙を見せてどうするんです? 暉堂は歩み寄りを模索しています。彼の大きな進歩ですよ。その心意気を汲んでいますか? ご自分のYES,NOの座標点に相手が沿う事を望む前に、その奥にある暉堂の気持ちのほうへ目を向けてやって下さい」11/01 08:07
ナレータ-:「なぜならこれは我の張り合いや覇権争いではない。度量を示せるかどうかの奥行きの問題だ。若い景虎が引いて歩み寄りの心を覗かせた。それなのに、その長き生ゆえに老成しているはずジークが、表面上の応酬に終始していた事に彼は釈然としない。一気に告げ、思わず唇を強く噛み締めたジョフロアが我に返った。」11/01 08:07
ジョフロア:「……失礼しました。つい…」11/01 08:07
ジーク:「いや...そうだね、ジョフロア。君の言う通りだ」11/01 11:55
ナレータ-:「暖炉の紅い炎を見つめていた双眸が、静かに目の前に現れた人物の方へ動き、炎に照らされた横顔が淡い陰影を落とす。」11/01 11:59
ジーク:「優しいね、君は....ここへおいで。」11/01 12:29
ナレータ-:「ジークがジョフロアに向け細い手を差し伸べた。」11/01 12:30
ジョフロア:「……はあ…はい」11/01 12:55
ナレータ-:「かなりストレートに物を言ってしまった後だけに、ジョフロアはジークの柔らかな物腰に少し拍子抜けした。景虎との対峙に見え隠れする緊迫感が見られない。それどころか、どこか透き通るようにさえ見える横顔と薄い肩には儚ささえ感じられる。ジョフロアは歩み寄って、ジークの座るソファーの足元に座った。毛足の長い絨毯の上に彼は膝を抱えてうずくまる。」11/01 12:55
ジョフロア:「よかったら、暉堂の気持ちに対しての貴方の気持ちを伝えてあげて下さい。…きっと彼は喜ぶと思うから」11/01 12:56
ジーク:「何故?...君がそこにいるのに...彼の側にいるのに」11/01 13:22
ナレータ-:「慈愛に満ちたジークの右手が困惑の表情を点すジョフロアの頬を優しく撫でた。」11/01 13:26
ジーク:「人にはそれぞれ分というものがある。その分をわきまえただけだよ、私は。差し伸べられた手を払ったわけではない。相手にはそうは見えないだろうが....」11/01 13:36
ナレータ-:「見つめ合う二つの瞳が重なり合う。頬にそのまま置かれた指先から伝わる冷たいのか温かいのかわからない温度。恐らくそれは心の現れなのだろうか。若い血を持つ身体は判別不可能な感情に戸惑いを隠せない。」11/01 13:52
ジョフロア:「そんな事はないと思います。僕だってあの申し出は少々無茶だと思いました。でも暉堂は男気で動く奴です。申し出は断っても、心だけは受け取った事を示せばいいのではないかな…」11/01 14:02
ナレータ-:「頬を撫でる指の優しさに、ジョフロアはふと不安を覚えて俯いた。」11/01 14:02
ジョフロア:「…僕は、暉堂にも貴方にも此処が順境であって欲しいと。…願っているのはそれだけです」11/01 14:02
ジーク:「心配しないで。ジョフロア。言葉にせずとも彼も自分でいつか分かる時が来るさ。...さぁ、行って。君の頬に触れていると このまま攫ってしまいそうになる」11/01 14:13
ナレータ-:「戯言とも本音ともとれるその指先から伝わる心情。赤らめた頬が暖炉の炎に映し出される。」11/01 14:18
ジョフロア:「…はい。じゃあ、行きます」11/01 14:22
ナレータ-:「何故自分の心拍数がこんなに上昇してしまうのか。ジョフロアは少し戸惑いながら、ジークの言葉どおりに立ちあがった。」11/01 14:22
ジョフロア:「…でも言霊は大切です。貴方のその心、是非言ってあげて下さい、ジーク」11/01 14:22
ジーク:「言ったさ。タイムラグがあるだけだ」11/01 14:27
ナレータ-:「タイムラグ...時間の観念の違いが生み出す魔法。ジョフロアを見上げ、くすりと笑った表情はもういつものジークだった。離れた手は既に彼の膝の上にある。」11/01 14:34
ジーク:「彼によろしく」11/01 14:35
ジョフロア:「もし、伝わっていなければ無と同じです。気持ちより物の提示が先行する事も。だから、お願いします」11/01 14:38
ナレータ-:「彼は言うだけ言うと大きく深呼吸した。魅入られそうなジークの瞳。そこから目を外さずに頭を下げる。孤愁があたりの空気に滲んでいた。だが、それを取り払おうとする事はジョフロアが他の運命に身を委ねる事を意味する。彼はそれを振り切るように、ジークに背を向けた。」11/01 14:38
ジョフロア:「では」11/01 14:44
ナレータ-:「ジョフロアは談話室を飛び出して、暗い廊下に走り出た。言葉でなければ伝わらない事もある。だが言葉をもってしても伝わらないものがある事も知っていた。それでも伝えたい想い。その一方で、異空間に漂っていたような会話が、秘しておかねばならない感情の存在も彼に伝えてきていた。永遠に重ならないかもしれない座標軸。各々の立脚地のやるせない程の乖離。それと反比例するようなそれぞれを結ぶ強い心の絆。そのパラドックスが切なくジョフロアの胸を抉る。三者三様に抱えていかなければならない運命。それを呪うかのように、ジョフロアは炯々と世界を照らす無情の月を睨みつけていた。」11/01 14:4

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